Vol.3 藤田 智 Faja
スキルも何もなく、どうやって生活していこうか手探りで探していた頃に、奄美大島へ片道切符で来た。
生まれ育った場所は?
生まれは静岡県。父の転勤で1歳の時に静岡を離れて、大阪と三重県で育ちました。
藤田智さんことFaja とても良い笑顔!
奄美に来たきっかけは?
サーフィンがしたくて。 高校時代に始めたサーフィン「これは面白いな、一生やるだろうな」そう思った。山の中で育ったから、海への憧れがもの凄くあったね。
「海のそばで暮らしたい」大人になって自分が暮らす場所は海の近くと決めていたそうです。
山の中では太陽が見える時間が少なくて、浜辺みたいに広いところから太陽が出る景色をほとんど見たことがなかった。旅先で広い浜辺を初めて見た時に「こんなとこに住みたい」と思った。
神の子ビーチ Picture by Keiko Yoshida
奄美に来た時は片道切符でお金もほとんど持たずに来た。 ただサーフィンがしたかった。お金がなくなったらコンビニでバイトしながらサーフィンして、お金が貯まったら帰ろうと思っていたね。でも当時の奄美にはコンビニもなく、8時には真っ暗。どうしようかと思っていたところにサトウキビ収穫のアルバイト話が舞い込んできた。
移住して何年になりますか?
バイト先でいろんな人に出会い、そうこうしているうちに「このまま、こっちでもいいんじゃないかな…」と思いはじめて移住し、19年が経った。奄美はすごく気持ちがいいし、人も優しい。住民票を移そうと思ったのは、サトウキビの収穫を終えた頃だった。
藤田家の目の前は海で、裏には小高い山がある。 Picture by Keiko Yoshida
海外にも住みたいと考えていたね。オーストラリアに行った時にパースという静かな場所が気に入った。奄美に来た時、静かでパースと少し似てると感じた。海外移住も考えていたけど、海外に旅行に行くと思ったら、海外みたいな奄美に住もうと。都会の忙しい感じとは違う暮らしがしたかった。
想像していた島の暮らしと現実とのギャップはありましたか?
特にギャップはなく、ギャップというより島の暮らしに慣れていかなきゃと思った。そのうち両親も呼ぼうと考えていたしね。
「いきなり家を作ることから始まったんだ」とfajaさんが建てたご実家
現在、木工の仕事を中心に生活している藤田さんことfajaさんは両親の家を建てることから始めて、ご両親も奄美に移住した。
仕事や旅などで、これまで経験してきた事は何ですか?
奄美に来るまではスキルも何もなく、どうやって生活していこうかと手探りで探していたね。旅先でナホバ族と出会ったことが大きなインスピレーションを受けた。そこにある材料と自分たちのスキルでものを作り、売っていたから。島に住んでて仕事がない時、何かしないといけないなと思った。「あー、彼らみたいに何か作ればいいんだ」と単純な発想からシルバーアクセサリーを作りをはじめた。
七色に輝く夜光貝 Picture by Keiko Yoshida
シルバーアクセサリーはナホバ族の影響で、ターコイズなどを使ったインディアンジュエリーみたいなものを作っていたが、次第に奄美の夜光貝を切って磨き、ターコイズの代わりに使い、どんどん島の素材を使いたくなり芭蕉の糸を使うように変えていった。
島のものにこだわっているのがfajaさんのアクセサリーの特徴。縄文アクセサリーだ。特に宣伝はしていないが口コミでファンは広がっている。お店を営んでいるファンの方が島内外でカフェやショップにて販売している。七色に輝く夜光貝はとても美しい。
木工は奄美で家を建てながら覚えた仕事。 特に建具の細かさに興味を持ったので、建具専門の仕事に5年間就いた。そして独立した。
宝物が詰まっているfajaさんの工房
「そもそも小さい時から細かい遊びが好きだった」と言うfajaさんはプラモデルやLEGO、ラジコンに夢中になり、それが大人なったら自転車、オートバイになっていったという。
自分で修理しながら使えるもの。 メンテナンスしなが覚えていき、オーストラリアではバイクでシドニーからパースまで東から西へと横断した。 他にもノーザンテリトリーやタスマニアにも行き、ニュージーランドではスノーボードを楽しんだ。一度帰国してアラスカへ向かった。ユーコン川をキャンプしながら進んで行くと必ず熊がいるから怖かったね。
普通に熊がいると言う。自然の中で熊に会ったらどうすればいいの?
熊は目が悪く鼻が利く、熊を見つけたら自分が風上にいるのか風下にいるのかをまず考えて移動する。
なるほど。そんなサバイバルな旅を経験したから今があるのだろう。
工房と実家へ続く道
昔から自然の中での暮らしに興味がありましたか?
興味はあった。ナホバ族の暮らしが理想的。自然の中で大家族で暮らしていて、自分たちで何もかも生みだす。どこの国でもそうかもしれないが田舎の方に行くと圧倒的に理想の暮らしをしている人が多かった。農業でも酪農でも自分たちで完結できる力を持ってる。それが単純にかっこいいと思ったね。
暮らし方一つとってみれば100年前とか、ちょっと戻れば持続可能な暮らし方で普通に生活していたわけじゃない?それが当たり前で何もないところから何かをつくることも当たり前だったはず、そういう原点というものが一番未来があるよね。
暮らしている家から庭へ出ると満天の星空 Picture by Keiko Yoshida
奄美の人もお年寄りが色々なことを知っている。奄美にある植物で籠を編んだり帽子を編んだりと、過去にやっていたスキルというのは、ただ昔やっていたというだけではなく、持続可能な未来を考えた時、その方法が一番未来に近いんじゃないかと。それを利用できるかできないかは、そこに暮らしている人たちの知恵と行動力しだい。
世界自然遺産を目指している奄美ですが、どう思いますか?
今あるこのままの状態をキープしていくことだよね。目指そうというサインばかり目立っている。観光業の一環って感じだけど、そうじゃなく、この自然環境が貴重だから世界の人に見てもらえるように残そうということでしょ?自然が残っていなかったら見せるところもないのだから。どういう風に残すか、島に住んでいる人たちが真剣に考えて行動しないといけないと最近の動き方を見てたら思う。
奄美の未来に望むことは?
いつも思っているのは、この状態をキープしたいなと、自然も人も。順番にお年寄りが亡くなり若い人が育っていくのだけれど、同じような感じで集落の人たち、島の人たちもいてほしいなと。
奄美のお気に入りの場所は?
自分が住んでいる集落の海! 一番ホッとできる場所になった。 浜に出たら南に向いていて、遮るものがなく海と空しか見えない。
自宅前のビーチ Picture by Keiko Yoshida
奄美の暮らしで楽しいことや、子育てをしていて感じることは?
集落内の活動には驚いたが、みんなで仲良く自作自演のパーティーをしてるみたいで楽しい。運動会は子どもの数より大人が多いのは当たり前。大変な部分もあるけど楽しんでいるね。その中に入れて、やらしてもらってるというのはすごく嬉しい。
家族四人で暮らしているfajaさんは夏のある日、奄美南部の山へと出かけた。空気がカラッとしていて涼しく、気持ちが良い。きれいな川が流れていて、また海と違う風が吹いていたのを感じたそう。それから毎年家族四人で出掛ける。
島の子は元気いっぱいだ!
奄美では北と南で環境が違い風景も変わる。それが奄美大島の魅力の一つだね。
fajaさんが初めて奄美大島に着いた朝、向かった場所は島の南にある嘉徳海岸。海のイメージで来たfajaさんが不安になるほど深い森に驚いたという。
どこまで行けば海にたどり着くのだろう…すごい景色だな。この先に海はあるのだろうか?と大きなヘゴの木などの植物に圧倒されなが向かった道のりと、たどり着いた浜辺にすごく感動したね。まるでジュラシックパークみたいと思った。
今後どう過ごして行きたいですか?
仕事と自分のリズムがうまく取れていないので、もう少し余裕を持って暮らしていきたい。やりたい事が多すぎて…子どもとの時間も、もっと欲しいし、あれもこれも作りたい!これからは自分自身と上手く向き合いながらリズムを作っていきたいと考えているところ。
自然の中で楽しむ子ども達 Picture by Keiko Yoshida
今、面白い木工に夢中になっている。サーフボード作り! 今はあまり見ないが昔はみんな木のボードだった。これも昔をたどることに繋がり、とても面白い。中が空洞になる作り方は船の作り方と同じで、海の中では現在のボードと重さはあまり変わらないけどウッドボードならではの「乗り味」があるよ。すごく楽しみなことの一つで思考錯誤しながら完成度を上げていきたい。
faja作ウッドサーフボードの完成度は既に高い
「休みという休みはない」と言っていたfajaさんは仕事の合間に自分の時間と家族の時間を作っている。「何が楽しい?」と聞いたら即答で「外で遊ぶこと」だそう。 波乗りや魚釣り、家の目の前が海という環境をおもいっきり楽しんでいる。
自分がここで育ちたかったなー。子ども達を見てて思う。夏は学校から帰ってきて毎日のように海で泳ぐ。都会では学べないことが島の子は学べていて、これだけ海に囲まれた暮らしは贅沢。島の人はあまり泳がないから海は貸し切りが多いよ。島の人は泳ぐと言うより熱くなった体を冷やす感じで服を着たまま海に浸かるね。
息子と海へ!仕事の合間に海に行ける環境 Picture by Keiko Yoshida
スキルも何もないところから始まり家を建て、今ではジュエリー、建具に家具にウッドサーフボードまで。全て完成度の高い作品が出来上がっている。そして、昔から海のそばでの暮らしに憧れていたfajaさんは今、海の目の前で理想的な暮らしをしている。
藤田 智 Faja Japonesian Arts & Crafts
木工と奄美の貝を主体としたシルバーアクセサリーを制作・販売